民による公益の増進
現在の公益法人制度は、多様化する社会のニーズに対応するため、民間の非営利活動の促進を通じた「公益の増進」を目的に平成20年12月1日に施行されました。
根拠法は次の2つの法律で、このほか施行令、施行規則、ガイドライン、内閣府FAQなどがあります。機関・組織に関する定めや法人運営の遵守事項などが明確化され、法人の自治が尊重される法体系になっています。
正式名称 | 通称 |
一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 | 一般法人法 |
公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律 | 公益認定法 |
NPO法人制度との違い
同じく民間の非営利活動の促進を意図した組織として、平成10年に成立したNPO法に基づくNPO法人があります(後に認定NPO法人も制度化)。
同じ考えに基づく制度のため、現在の公益法人制度の検討段階で統合話もあったようですが、社会への浸透状況を考慮した結果、共存することになったようです。
それぞれの組織形態について、相対的視点から長所・短所まとめると以下のとおりです。
組織形態 | 長所 | 短所 |
公益社団法人 公益財団法人 | ・社会的評価が高い ・寄附を集めやすい (個人の所得控除など) ・優遇税制あり (みなし寄附、源泉非課税) | 厳しい認定基準 (特に財務基準) ・認定取消時の財産没収 |
一般社団法人 一般財団法人 ※非営利型 | ・設立が容易 (準則主義で審査なし) ・事業内容に制約ない | ・社会的評価は高くない ・社会的に好ましくない 組織の隠れ蓑にされた場 合の風評被害リスク |
認定NPO法人 | ・社会的評価が高い ・寄附を集めやすい (個人の税額控除も) ・優遇税制あり (みなし寄附) | ・PST※等の認定基準 ※市民からの支持状況を寄附収入で判定する基準 ・優遇税制は公益法人に劣る |
NPO法人 | ・設立が比較的容易 (所轄の審査はある) ・活動内容の自由度高い ・市民、行政の支援を受けやすい | ・社会的評価は認定法人に劣る ・情報開示の義務あり |
公益認定基準は、公益認定法第5条1~18号に規定されており、大別・要約すると以下のとおりです。
1.財務数値に関するもの
通称「財務三基準」と呼ばれる事業の公益性を判定する基準です。
1) 公益目的事業を主としているか ⇒ 公益目的事業比率50%以上
【判定式】
公益目的事業の経常費用 ÷ 法人全体の経常費用 ≧ 50%
2) 公益目的事業で必要以上の利益を上げていないか ⇒ 収支相償
【判定式】
公益目的事業の経常収益と費用の差額 ≦ 0
※収益事業からの振替額も含め判定
翌年度以降の計画を含め判定することも可能
3) 一定額以上の財産をため込んでいないか ⇒ 遊休財産保有制限
【判定式】
運転資金などの財産額 ≦ 公益目的事業の経常費用の1年分
2.財産の取扱いに関するもの
- 公益目的事業に不可欠な財産ある場合、処分制限等を定款に定めていること
- 清算時の残余財産及び認定取消等の場合の一定の財産は、他の公益法人等に寄附する旨定款に定めていること
3.組織運営・ガバナンス等に関するもの
- 財政基盤の健全性や経理体制の整備、公益目的事業の遂行能力があること
- 利害関係者や一定の団体などに対し、特別の利益を与えないこと
- 公益法人の事業として相応しくない投機的な取引等を行わないこと
- 収益事業等を行う場合、公益目的事業に支障を及ぼすおそれがないこと
- 役員構成は、三親等以内の親族等及び同一団体理事等が1/3以下であること
- 会計監査人を設置すること(収益・費用1,000億以上又は負債50億以上)
- 役員等への報酬等は、支給基準を定め、不当に高額な報酬等にしないこと
- 社団は理事会を設置し、社員の議決権行使等に関し差別的扱いをしないこと
- 他団体の株式等を保有する場合、議決権の50%を超えてはならないこと
※上記の他、認定を受けられない欠格事由もあります。
財務三基準
公益認定の最大のハードルは、財務三基準といっても過言ではないでしょう。この財務三基準クリアのための主なポイントは以下のとおりです
ポイント
【その1】公益目的事業の費用の最大化 【財務三基準・共通】
財務三基準はいずれも公益目的事業の経常費用を判定項目に含めており、この数値の最大化が鍵を握ります。
役員や総務・経理スタッフなどの人件費を、「間接部門だから」という理由で、管理費処理されているケースを目にします。
この場合、公益目的事業との関連性を整理することで、従事状況に応じた公益目的事業への配賦が可能です。
【その2】みなし費用の活用 【公益目的事業比率50%以上基準】
例えば、無償でボランティアのサポートを受け公益目的事業を行っている場合には、合理的な算定根拠に基づく賃金相当額を、費用とみなすことができます。
また、土地の使用料や貸付金利息も一定の条件のもと、みなし費用に算入できます。
【その3】対価性のない収益は他へ 【収支相償基準】
寄附金や賛助会費などの対価性のない収益は、拠出者の使途の特定等を前提に、公益目的事業会計の指定正味財産や、法人会計に計上可能です。
【その4】翌期以降も含め対応 【収支相償基準】
今期、公益目的事業が黒字の場合でも、翌年度の事業拡大等により、黒字を上回る赤字が見込まれる場合には、基準を満たすこととされています。
この場合、翌年度の事業計画及び予算に織り込むことで説明し易くなります。
【その5】財産を区分 【収支相償・遊休財産保有制限基準】
財産を公益目的保有財産、特定費用準備資金又は資産取得資金に区分することで、基準を満たし易くなります。
ただ、いずれの財産も、計上や取崩しに関し法令上の制約があるため、法人の状況に応じた区分の検討が欠かせません。
上記以外にも様々な対策があります。弊社では、状況確認やヒアリングを通じて、組織の活動に調和する対策をお客様の視点から導き出します。
公益性の説明
財務三基準と同様、万全の準備が欠かせないのが、公益性の説明資料です。
財務基準は満たしていても、事業の公益性が否定されると、前提が崩れてしまうからです。
公益事業の趣旨・内容を正しく伝え、公益性を認めてもらうためのポイントは、長文、専門用語、難しい表現等は避け、事業の目的とそのための手段とを整理することです。
ポイント
長文 | 内容ごとに段落分けをし、「箇条書き」も活用しましょう。 |
難しい用語 | 難しい用語・表現の使用は避け、極力平易な文章を心がけましょう。 |
専門用語 | 用いる場合は用語の解説を注書きしましょう。 |
抽象的表現 | 用いる場合には具体例も合わせて記載しましょう。 |
目的と手段 | 何が「目的」で、何が「手段」かをしっかり整理。 手段が目的化している文章では、正しく伝えられません。 |
※第三者の視点からのチェックも活用し、しっかり検討しましょう。